管理会計を活用してプロジェクトをマネジメントする3つのポイント

この記事にたどり着いた方は、財務会計や管理会計という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?しかし、管理会計で「プロジェクト」をマネジメントすると言われても、今一つぴんとこない人が多いかと思います。ところが、管理会計は全社や部門の経営管理が行えるだけでなく、プロジェクトマネジメントにも非常に有用な手法なのです。
この記事では、管理会計・財務会計の基礎や導入のメリット・デメリット、さらに管理会計で「プロジェクト」をマネジメントするポイントを解説します。

1. 会計とは

まず、会計の定義を解説します。「家計」と合わせて学ぶと理解しやすいでしょう。
家計は「家のお金の計算」のことで、会計というのは「会社のお金の計算」のことです。家計を記録するのが家計簿で、会計を記録するのが簿記です。1章では、家計簿と簿記を比較することで、会計の特徴を見ていきます。

1-1. 「原因や結果」の記録

家計簿は「原因や結果」を記録できません。現金の動きを中心に記録しているので、買ったものがどういう状況にあるのかを把握できないのです。
一方、簿記上の取引は、財産の変動という「結果」は何等かの「原因」によって起こると考えます。たとえば、「電気代7,000円が預金から引き落とされた」という取引は、次の2つに分類できます。

・「電気代を支払う」=「電気代の発生」という原因
・「預金から引き落とされた」=「預金の減少」という結果

1-2. 「期間」の概念

家計簿は「期間」の概念が存在しません。家計簿も毎日や毎月のような単位で作成します。しかし、例えばクレジットカードでの買い物は、買った時(原因)でなく、クレジットカード支払明細(結果)を家計簿に転記する人が多いと思います。
一方、会計の場合は、期間内に行った取引は、キャッシュのやりとりにかかわらず、その期間の取引として記録をするのです。

こうした「期間を区切った、経営活動の結果と原因の計算」を、「期間損益計算」といいます。期間損益計算の概念を採用することによって、出資者は、企業が一会計期間に獲得した利益を配当という形で受け取り、国や地方自治体も、企業の利益から支払うべき税金を計算できるようになりました。企業がその活動において必ず作成する必要のある「財務諸表」は期間損益の概念によって作成されています。しかし、「期間損益計算」こそが、家計簿と違って会計を複雑なものにしています。

2. 管理会計と財務会計の違い

会計は、目的によって「財務会計」と「管理会計」に大別されます。2章では、管理会計について把握するために、2つの違いを解説します。

2-1. 外部報告のための「財務会計」

財務会計は、株主や金融機関をはじめとする社外の利害関係者に過去の業績を把握してもらうために提出する会計手法のことです。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書といった決算時に作成される財務諸表などは、財務会計のための資料にあたります。金融商品取引法、会社法などの法律や、会計基準に基づいて算出されます。企業外部の利害関係者に対して公表されるものであるため、内容の正確性が重視されます。集計単位は、企業単体やグループ中心となります。
利害関係者は、財務会計の情報をもとに企業がどういう財務状況であるか把握し、利害対立の調整をはかることができます。

3. 財務会計と管理会計の生い立ち

管理会計を理解するために歴史を振り返るのは、遠回りに見えて近道になります。
3章では、財務会計と管理会計を把握するために、その起源をさかのぼってみましょう。

3-1. 財務会計の誕生

財務会計は、中世イタリアですでに存在していました。当時は貴族がお金を出して、そのお金で船と乗組員を調達し、船旅をさせます。貴族は、乗組員たちにお金の動きをすべて記録させて、港に戻ってきたら報告させるようにしました。これが、財務会計の起源です。

3-2. 財務会計の複雑化

1章で記述のとおり、「期間損益計算」こそが、会計を複雑なものにしています。その代表例が減価償却という概念です。
減価償却は、19世紀半ばの鉄道会社から使われはじめました。蒸気機関車が実用化され生まれた鉄道会社は、株主から資金を調達し、巨額の設備投資を行いました。鉄道会社は株主に配当しなければなりませんが、家計簿的な「収入・支出ベース」で儲けを計算してしまうと、「投資した期=赤字、投資のない期=黒字」となって、安定的に配当ができません。そこで、儲けを平準化するために考案された会計処理が、数期に分けて費用計上をする「減価償却」です。
減価償却の登場は、「期間損益計算」という、数百年の会計史でも大きなターニングポイントになりました。

3-3. 管理会計の起源

蒸気機関はアメリカに渡り、大量生産が始まりました。手工業から機械を使った工場制生産への変革を経て、コストをどう把握するのかが重視されるようになりました。設備投資も膨大になり、減価償却がコストに跳ね返ってくるため、製造するためにかかった原価を計算することが必要となったからです。
こうして、アメリカの紡績工場では、簡単な総合原価計算が行われるようになりました。同時期に鉄道建設がはじまり、鉄道会社は社債に依存した資金調達をしたため、鉄道原価計算が開発され、営業路線別業績、拡張路線の評価などに展開されました。
これらの原価計算が、管理会計のスタートといえます。

4. 管理会計で行うマネジメントとは

管理会計で行うマネジメントの代表的な例として、「経営分析」「原価管理」「予算管理」の3つがあります。4章では、「経営分析」「原価管理」「予算管理」について見ていきます。

4-1. 経営分析

経営分析ではさまざまな情報を分析する必要があり、あらゆる情報を統合的に管理することで、経営状況を明確に可視化していきます。

1)収益性・成長性の分析
収益の向上は経営の大きな目的の1つです。経営資源を効率的に回し、成果を得ることができているかどうかを把握することが必要です。具体的には、売上高や売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高当期純利益率の推移や傾向を分析します。

2)安全性・キャッシュフローの分析
安全性の観点で特に重要となるのがキャッシュフローです。それは、たとえ、黒字で売上が伸びていても、財務的に安全とは限らないからです。3章の「財務会計の複雑化」で述べた「期間損益計算」の概念によって、儲かっているからキャッシュフローが安全とは限らないのです。むしろ、急激に売上が伸びたときに資金ショートして黒字倒産するのはよくあることです。

安全性分析を行うときは、短期的な安全性と長期的な安全性の2つの観点で分析します。短期的な安全性とは、企業の支払能力を表すものです。短期的な安全性の指標としては、流動比率や当座比率、現預金月商比率(手元流動性比率)があります。長期的な安全性とは、財務構造の安定度を表すものです。長期的な安全性の指標としては、自己資本比率、借入金依存度、有利子負債月商比率(借入金月商倍率)、固定比率、固定長期適合率などがあります。

3)生産性・効率性の分析
生産性を見ることで、企業の投入した経営資源に対するアウトプットを知ることができます。具体的には、先ず付加価値(企業のヒト・モノ・カネを使って新たに生み出した価値)を算定し、付加価値率(付加価値/売上高)、労働生産性(付加価値/従業員数)、労働装備率(有形固定資産/従業員数)、労働分配率(人件費/付加価値)などを分析していきます。

4-2. 原価管理

原価管理とは、目標とする原価と実際にかかる原価を比較し、改善していくことです。原価管理にはさまざまな方法があり、代表的な方法としては「標準原価」による計算や、「原価企画・原価維持・原価改善」があります。

4-3. 予算管理

予算管理とは、計画の数値(予算)と実行結果(実績)を比較し、改善していくことをいいます。予算が計画通りでなかった場合は、その原因を分析し、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)を順に実行していきます。
予算には年次予算や月次予算などが挙げられ、多くの企業では月次予算管理を取り入れています。予算管理を徹底することにより、企業の継続的に成長を図っていくこは、管理会計の重要な役割です。

5.管理会計導入のメリット

管理会計を導入するメリットは、経営状態を「見える化」でき、予算などの計画立案がより容易になることです。5章では、主な管理会計のメリットを解説します。

5-1. 業績評価から改善を行う

主に4章の現状分析で把握した情報を基にしながら、利益とキャッシュフローによる業績管理を行います。自社の利益構造を分析して、企業を取り巻く環境の変化に対応しながら、目標達成のための年間予算や複数年の利益目標などを設定します。年次決算や月次決算の数値を基に財務分析を行った結果から、改善策や目標を立て、次期の経営計画や予算に組み込むことで、経営管理に役立てることができます。

業績管理ではさまざまな手法が用いられますが、損益分岐点分析と変動損益計算書が基本的な手法です。

  • 損益分岐点分析では、固定費(売上の有無に関係なく必要な費用)が回収できる売上高である損益分岐点売上高(利益ゼロの売上高)がいくらなのかを把握し、利益の改善に活用します。
  • 変動損益計算書は、費用を固定費と変動費(売上に応じて金額が増減する費用)に分けて作成する損益計算書のことです。これを基に、利益の源泉を把握して、成長のために経営資源をどこにどれだけ投入するか検討します。

5-2. 原価管理からコスト改善を行う

利益目標のために原価をコントロールしていくには、製品をいくらで生産できたかを計算する原価計算だけでは不十分です。目標の原価を設定するとともに実際原価を迅速に把握し、目標と実際の原価を比較、目標原価に近づけ、利益確保に役立てなければなりません。これが原価管理です。
原価管理は、原価統制(現在生産中の製品に対する原価管理)と原価企画(現在開発中の製品に対する原価管理)に分けて考えることができます。短期および中長期的な観点から、企業の成長に必要な原価の引き下げ目標を明確にし、達成に向けた継続的な活動が重要です。

5-3. 予算管理と月次決算のサイクル化

計画を予算として数値化し、実行結果の数値と比較・評価し、原因を改善していきます。経営管理を効果的に行うためには、月次決算を早く、正確に行うことで、PDCAサイクルを回せる体制を構築することが重要になります。予算管理は、会社単位でも部門単位でも適用できます。

6. 管理会計導入のデメリット

管理会計には、これまで見てきたように多くのメリットがありますが、デメリットもあります。6章では管理会計の主なデメリットを挙げていきます。

6-1. 現場の負担が増加する

管理会計は、現場の負担が導入前よりも増えます。管理会計を導入することによって必要な書類も増えますしチェックすべきポイントも多くなります。管理会計を導入する際は現場としっかり話し合いをし、現場に無理強いをしないことが大切になります。

6-2. コストが増加する

管理会計は、コストが導入前よりも増えます。全社的な管理会計の導入のために、管理会計システム導入や会計ルール整備などの手間と費用が発生します。導入後も、管理会計を継続的に実施するための維持コストもかかります。また、組織変更に対応するためのコストも発生します。管理会計を正確に理解して、運用できる人材も確保する必要があります。

6-3. 管理会計が活用されない

財務会計システムの「過去データ」をもとにした分析のみでは、経営判断には物足りないため、活用されないことがあります。しかし、財務会計システムに未来予測データを取り込むと、過去データと混在してしまい、ミスや混乱の基となる可能性もあり、実務的には実現のハードルは高いです。
また、多様な機能を持つ管理会計システムでも、利用者である経営層が使いこなせなければ宝の持ち腐れになります。

7. 管理会計を活用してプロジェクトをマネジメントする3つのポイント

これまで、管理会計で全社や部門をマネジメントすることを見てきました。管理会計を活用してプロジェクトをマネジメントすることも可能です。7章では、管理会計によるプロジェクトマネジメントについて解説します。

管理会計により、収益をルールに則って整理し、プロジェクト単位の収益やコストを明らかにできます。プロジェクトに焦点を定めて数値を追うことで「どのプロジェクトが収益を上げているのか」「どのエリアが好調なのか」といった、より詳しい分析が可能となります。

7-1. プロジェクト予算管理

プロジェクトにおける予算管理とは、プロジェクト単位に予算と実績を管理することです。プロジェクトの売上やコストを想定し、実績と想定の乖離を防ぐ活動です。具体的には、売上予算、経費予算、外注費予算、工数予算の予算を管理します。プロジェクト予算管理の方法について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

クラウドログ「IT企業の予算管理の基礎知識 予算管理の精度をあげる方法とは?」
https://www.crowdlog.jp/blog/2019/1/15/budget_management/

7-2. コスト管理

コスト管理とは、プロジェクト内でコストを見積もり、配分し、管理するプロセスです。プロジェクトの実行に伴って経費を記録して追跡し、作業がコスト管理プランに沿って進行していることを確認します。コストマネジメントについて詳しくは、以下の記事をご覧ください。

クラウドログ「コストを予算内に収める!PMBOKコストマネジメントの基礎知識と実施作業を徹底解説!」
https://www.crowdlog.jp/blog/2018/02/27/cost_management/

7-3. 出来高管理

出来高とは、実際に出来た価値を示すもので、計画予算に対して獲得できた価値がどれだけあるのかを示すものです。計画予算と出来高を比べてみることで、早めのアクションを起こすことができます。出来高管理(EVM)について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

クラウドログ「アーンド・バリュー・マネジメント(EVM)とは!?EVMでプロジェクト管理する方法」
https://www.crowdlog.jp/blog/evm-project

8. まとめ

この記事では、管理会計の概要、導入のメリット・デメリット、「プロジェクト」への適用などについて解説してきました。
管理会計を正確に行うことで、業務効率の向上や、的確な経営判断をタイムリーに行うことができ、企業の業績向上を図ることが可能になります。更に、管理会計を活用してプロジェクトをマネジメントすることも有効な手段です。デメリットを勘案しつつも、メリットの多い管理会計の導入を推進してはいかがでしょうか。

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