ナレッジマネジメントとは?導入の5つの目的や運用の考え方を徹底解説!

生産効率やスピードが求められるIT業界において、ナレッジマネジメントは重要な管理項目のひとつです。テレワークが進む中、改めてその必要性が高まっていますが、ナレッジマネジメントをしようとしても、どのように進めればよいものかわからなかったり、システムを導入してもうまく定着せずに失敗してしまったりすることがよくあります。ここでは、改めてナレッジマネジメントの考え方を認識しなおし、目的を整理し、自社にあった導入を進めるための考え方を解説していきます。

目次

ナレッジマネジメントとは?

ナレッジマネジメントとは、業務における暗黙知を可視化させ、生産性の向上や創造的な活動を促すための管理手法のことです。

日本で多く見られるナレッジマネジメント

日本では、ナレッジマネジメントが「知識管理」に留まっていることが多いと言われています。具体的には、ドキュメントやポリシー、手順などの文書化、個々の暗黙知である専門知識や経験の文書化など、可視化する作業に留まっていることが多いということです。

本来のナレッジマネジメントの意味

日本で多く見られる「知識管理」は、ナレッジマネジメントの第一段階にすぎません。収集した知識を活かした「知識に基づく経営」、収集した知識を基に新しい知識を創造しつづけることにより「知識創造の経営」を推進することが本来目指すべきナレッジマネジメントです。

ナレッジマネジメントの要、SECIモデルとは?

SECI(セキ)モデルとは、一橋大学の野中郁次郎氏が提唱したナレッジマネジメントの要となるフレームワークです。

SECIモデルの考え方「形式知」と「暗黙知」

SECIモデルでは、知識には「形式知」と「暗黙知」があると定義しています。

形式知

形式知とは、明確に言語化できる知識を指し、数値や言語、図表などで表現できるものを言います。
例えば、定型化されている業務を言語化し、マニュアル、手順書など作成することが形式知にあたります。

暗黙知

暗黙知とは、個人の技能や感覚による知識を指し、言語化しにくく共有しにくいものを言います。
例えば、職人が手の感覚だけでミリ単位の調整を行うようなものや、信念や経験に基づく行動などが暗黙知にあたります。

SECIモデルのフレームワーク、4つのステップ

SECIモデルでは、ナレッジマネジメントを作用させるには社内に存在する「暗黙知」を「形式知」に変換することが重要であるとしています。
そして、知識を形式知へと変換していくためには4つのステップがあり、このプロセスを廻すことで創造的な活動へ繋げます。

ステップ1:共同化(Socialization)

共同化とは、共同作業など何らかの機会を通し、暗黙知を他人に共有するプロセスです。
例えば、後輩が先輩の背中を見て仕事を覚えたり、OJTで仕事を覚えたり、職人が先輩の技を見て覚えるというように、経験を通して暗黙知を共有することを指します。

ステップ2:表出化(Externalization)

表出化とは、ステップ1で得た暗黙知を形式知(見える形)にすることです。
例えば、暗黙知をもとにマニュアルを作成したり、図式化や数値化したりすることがこれにあたります。
SECIモデルの提唱者である野中氏は、表出化が知識創造の要で、ナレッジマネジメントの最も重要なステップとしています。

ステップ3:連結化(Combination)

連結化とは、ステップ2で表出化した知識同士を組み合わせ体系的な知識を作り出すことです。
例えば、一人よがりで作った作業手順書は抜け漏れがあったり、実はもっと効率的な手順があったりします。各人の形式知を組み合わせることで質の高い新たな形式知を作ることができます。

ステップ4:内面化(Internalization)

内面化とは、ステップ2・3で得た形式知を身につけ、ステップ1の暗黙知に再び変換すること、またはステップ2・3で得た形式知から新たな暗黙知を生み出すステップです。
例えば、作業手順書を作ったことで誰でも同じ作業ができるようになったり、作業手順書によって手順の改善を行うなどで新たな方法(暗黙知)を生み出したりすることです。

野中氏は、この4つのステップは廻すだけの「サイクル」ではなく、ダイナミックなスパイラルであることを注意点として挙げています。
サイクルを廻すごとに知識が深まり「新たな経験と知識で豊かになった自己を発見する,自己超越プロセス(※1)」にすることを理想としています。

※1:国立研究開発法人科学技術振興機構「知識管理から知識経営へーナレッジマネジメントの最新動向」P5

4つのステップをつなぐ「場」

SECIモデルでは前項の4ステップを廻していきますが、各ステップをつなぐための4つの「場」(機会)を用意することも重要な要素であるとしています。場のデザインの設け方次第でうまく「知識創造」が行えるか否かが左右されます。

ステップを繋ぐ場 1:創発場

創発場とは、共同化のための場のことで、ノウハウや経験、考え方などの暗黙知を共有します。
例えば、OJTやメンター制度、日々の雑談、ランチや客先への移動の時間など様々な「場」があります。

ステップを繋ぐ場 2:対話場

対話場とは、暗黙知を形式知にする表出化のための場のことで、暗黙知を見える形でアウトプットします。
例えば、引き継ぎ作業のための業務のマニュアル化、業務報告、プレゼンやミーティングなどがあります。

ステップを繋ぐ場 3:システム場

システム場とは、複数の形式知を連結化するための場のことで、お互いの形式知を共有してブラッシュアップを行い、新たな形式知を作ります。
例えば、打合せや社内Wiki、グループウェア、チャットなどがあります。

ステップを繋ぐ場 4:実践場

実践場とは、他人から得た形式知を実際に行い経験する場のことで、実施者は新たな暗黙知を得ることになります。
例えば、手順書に従って実際に作業を行う、マニュアルに沿ってテレアポを行うなどがあります。

ナレッジマネジメントを行う5つの目的

ここまでは、ナレッジマネジメントとは何か、また、SECIモデルを用いナレッジマネジメントの概念を解説してきました。これらを踏まえ、なぜナレッジマネジメントを行うのか、目的を確認していきます。

目的1:属人化による問題発生リスクを減らす

ナレッジの共有を行っていない場合に、必ず発生する問題が「属人化」です。突然の事故や病気、欠勤、退職など、一人の担当者しか知らない業務や作業手順があると、顧客に迷惑をかけたり、サービス運用に影響が出たりなど会社として大きなリスクとなります。

目的2:生産効率の向上、業務効率化

組織として常に考えなければいけないことは生産性の向上でしょう。
ナレッジマネジメントは、SECIモデルの解説の通り、暗黙知を形式知にし(表出化)、知識を持ち寄りブラッシュアップ(連結化)、得た知識を業務で実体験(内面化)することで、自己の知識をレベルアップさせていきます。これが生産効率の向上や業務の効率化に大いに貢献します。

目的3:人材育成期間の短縮、人材育成のコストダウン

人材育成も組織にとっては重要な項目で、コストのかかる問題です。社員が勝手に育つことは難しいため、スキルアップ研修の実施や業務の説明会の実施、新入社員には教育係を付けるなど時間も人員も必要になります。
ナレッジマネジメントができている場合、マニュアルで作業ができたり、業務の情報を社員自身で検索・参照したりすることでコストダウンが期待できます。

目的4:スキルの底上げ

ナレッジマネジメントが実施できていると、社員のスキルをある一定のレベルまで持っていきやすく、組織全体のスキルの底上げを望むことができます。
スキルアップが図れると、目的2の生産効率の向上や目的3の人材育成にも繋がります。

目的5:「知識に基づく経営」と「知識創造の経営」

「ナレッジマネジメントとは?」の中で述べた通り、ナレッジマネジメントとは知識の蓄積や共有するというレベルを超えて「知識に基づく経営」、「知識創造の経営」を行うことが大きな目的です。知識創造の経営とは、SECIモデルをスパイラルで廻し、内面化からから共同化へ繋ぐなかで新たな知識が生まれ、創造的な活動・業務が行えているかにあります。また、ここまでに挙げた目的1〜4は、この経営を行うためのベースになると考えて良いでしょう。

ナレッジマネジメントが定着しない5つの理由

これだけナレッジマネジメントが大切と言われていても、組織の文化や個人のマインドの高さによる所があるため、アウトプットするように指示しても定着しないことが殆どです。ここでは、ナレッジマネジメントが定着しない主な理由を確認していきます。

理由1:やらされ感、面倒

組織のルールとして文書化などを指示する場合、トップダウンで行われることが多く当事者はどうしても「やらされている」と感じてしまいます。マネジメント側から見ればアウトプットも業務のうちと捉えますが、実務を行う当事者は「業務と直接関係のない余計なこと」と捉えがちなため面倒→やらないという行動になってしまいます。

理由2:時間がない

業務が忙しすぎるというのもひとつの理由です。やろうやろうと思っている間に手をつけないまま時間が過ぎ、忘れてしまったり、もうやらなくていいかというモチベーションに陥ってしまったりするため、アウトプットも含めた工数を確保してあげる等の対処が必要です。

理由3:何を書けばよいかわからない

自分の持っている何の知識を残すべきか、誰に役に立つのかイメージできず、行動に移せない場合があります。アウトプットする意味や目的を知らなければ、情報の質も低くなりがちです。

理由4:導入したシステムやルールが良くない

IT業界、特にエンジニアは非効率な作業が大嫌いです。ナレッジマネジメントに使用するためのシステムが使いづらかったり、ルールに納得ができなかったりする場合、アウトプットの作業自体を遠ざけるという行動になってしまいます。

理由5:欲しい情報が見つからない、情報がない

ナレッジの共有はインプットとアウトプット両方があります。欲しい情報を得るために色々探した結果、欲しい情報が得られないという体験をしてしまうと、検索するのは無駄だというイメージがつき、社内ナレッジを検索するという行動自体を行わなくなります。

導入や見直しにあたって気をつけたい3つのポイント

ここでは、ナレッジマネジメントを導入したり、改善したりする際にどのような点に気をつけるべきかを確認していきます。

気をつけるポイント1:トップダウンで強制しない

前項でも触れたとおり、強制での実施はやらされ感が一番出るため失敗に繋がりやすいやり方です。これは、マネジメント側の力量が試される部分でもありますが、なるべく社員を誘導するような形で進める必要があります。

気をつけるポイント2:古い方法を採用しない

エクセルやワードをメインにする方法は100%運用されないと言ってよいでしょう。今は便利なクラウドシステムがあるため、できるだけ負担がなく使いやすい方法を採用しましょう。方法とともに、運用ルールづくりもポイントとなります。

気をつけるポイント3:全社で一気にシステムやルールを導入しない

クラウドのグループウェアなどは全社的に一気に導入すると失敗しやすいため、1プロジェクトや数チームで小さく導入し、トライアル期間を設け、ある程度ルールも確定してから順次適合する部署に広げていく方が成功の確率が高くなるでしょう。

生きたナレッジを運用していくためのアイデア5選

導入を円滑に、そして、運用を定着させる方法に正解はありません。生きたナレッジにするためには、SECIモデルのフレームワークを使いながらマネジメント側の試行錯誤が必要になります。
ここでは、うまく運用するための「あるべき論」ではなく、マネジメント側が意識を変え、あの手この手で社員を動かすため考え方、アイデアを紹介していきます。

アイデア1:目的を明確に、大切さを感じさせる

ナレッジマネジメントの運用には社員ひとりひとりのマインドによる所が大きいため、意識改革が必要です。折にふれ、その情報どこかにあるの?というようなツッコミを入れ、本人に必要性を気付かせ、良い意味でのマインドコントロールをしていきます。また、後輩などに教える時間が減るなど最終的には自分に恩恵があることを認識できるよう誘導する方法も良いでしょう。

アイデア2:ツール選定と運用方法をコンペにする

失敗理由である「やらされ感」をなくすには自発的に動いてもらうことが一番の解決策です。そのため、ツール選定や運用ルール作成、トライアルまで行う人員を数チーム作り、発表するプレゼン大会を実施し、投票で採用を決定するなどで社員の納得感を作ります。

アイデア3:情報を書くタイミングをルール化してみる

ゲーム的にライトなルールで始めることもひとつの手です。後輩や新人から業務手順などについて質問されたら負け、口頭で伝えることはNGで、すぐさま書き、書いた情報を質問者に共有するという遊び感覚からスタートしてみます。
ナレッジベースにある情報を見つけられずに質問してきた人がいたら、両者で、検索の仕方が悪かったのかなど、原因を確認し改善していく方法も良いでしょう。

アイデア4:ナレッジベースも継続的に改善する

ナレッジマネジメントにもPDCAが必要なため、ナレッジベース運用について、KPTなどのふりかえりを定期的に行えばナレッジ共有の活性化が図れる可能性があります。
ナレッジマネジメント運用自体にもSECIモデルを使うと最強の運用ができるかもしれません。

アイデア5:ナレッジマネジメントを当事者である社員達に委ねる

1〜4のようなアイデアも現場の社員に出して貰い、推進していけば成功率を上げてくれるでしょう。この場合、マネジメントは大変になるものの、自分たちで決めたことは実行に移されやすく、また、容易にやめにくいというメリットがあります。

まとめ

ここでは、ナレッジマネジメントの基本概念から、定着しない理由や気をつけたいポイント、運用のアイデアまでを解説してきました。
ナレッジマネジメントは、こうしたら成功するという正解はなく、それぞれの企業にあったやり方が必要です。その分難しい分野と言えますが、組織や個人がナレッジマネジメントから受ける恩恵は多大なため、今一度現状を見直し少しずつでも進めていくことが企業成長の礎になるでしょう。

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