マルチタスクとシングルタスクの生産性を考える|研究結果を基に解説

世間一般的な印象として、マルチタスクで仕事ができる人は有能だというイメージがあるのではないでしょうか。そのため、生産性向上が課題となっている現場において効率を考えたとき、マルチタスクとシングルタスク、どちらで仕事をするべきか導入に迷う場合もあるでしょう。

しかし実際のところマルチタスクは生産性を下げるという事実が研究結果から明らかになっています。そこで、ここでは様々な研究結果をもとにマルチタスクの生産性について解説します。

マルチタスクとシングルタスク

まず、マルチタスクとシングルタスクの違いを確認していきます。

マルチタスクとは

一度に二つ以上の複数作業を同時並行で行うことを言います。
元々は、一つのコンピューターで同時に複数処理を行う「multitasking」というコンピューター用語が由来で、ビジネスにも使用されるようになりました。

シングルタスク(モノタスク)とは

一度に一つの作業を行うことを言います。一つの作業が完了してから次の作業を行う方法で、「モノタスク」とも呼ばれます。

性別で異なるマルチタスク、シングルタスクの向き不向き

一般的に、男性はシングルタスク、女性はマルチタスクに長けていると言われています。
この向き不向きの起源は原始時代にさかのぼり、狩りというひとつのことに集中しなければいけない男性と、帰りを待ちながら家事をこなし、子供の世話をし、仲間とコミュニケーションをとらなければいけない状態にあるという男性と女性の状況の違いがそうさせたと言われています。

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マルチタスクは神話である

一見マルチタスクで作業を行っているように見えても、本当の意味でマルチタスクを行えている状況は少ないです。
実際マルチタスクを行えていると言えるのはどのような状態なのか、また、マルチタスクの実際について解説します。

マルチタスクが行えている状態とは

マルチタスクが行えている状態とは、下記のような状態です。

  1. 歩きながら服を着たり、食べながらテレビを見たりなど、タスクに対し十分に学習されていてタスクを完了するために実際に考える必要がないほど無意識に行える状態。
  2. 本を読みながら音楽を聴くなどの状態。この場合、歌詞のない音楽がマルチタスクになりやすく、歌詞のある音楽の場合は本の情報をあまり保持できないと言われています。これは単語を含んでいることにより脳の言語中枢が活性化されるためです。

殆どの場合マルチタスクはできていない

普段マルチタスクをしているように感じたり、他の人にはマルチタスクを行っているように見えたりする場合も、実際は、タスクからタスクへ切り替えている状態です。

メールを読みながら電話で話したり、チャットをしたりなど、複数の作業を行っているように見えても、実際は絶え間なくタスクの開始と停止を行っているにすぎず、マルチタスクを試みているにすぎません。

MITの神経科学者である Earl Miller氏によると、私たちの脳は「マルチタスクをうまく処理するような回路にはなっていない。人は自分がマルチタスクを行っていると考えるとき、あるタスクから別のタスクに非常に急速に切り替えているだけです。」としています。

また、パオロ・カルディーニは、実際にマルチタスクが行えている人は、2%にすぎないと語っています。

参考:TED日本語 – パオロ・カルディーニ: マルチタスクはやめて、モノタスクを

そのため、マルチタスクが苦手と感じるのは当然のことであるとも言えます。

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マルチタスクの弊害、デメリット

では、マルチタスクを行うとどのような状態に陥るのでしょうか。
ここではマルチタスクを行うことにより発生する弊害やデメリットについて解説します。

マルチタスクはシングルタスクに比べ+40%の時間がかかる

アメリカ心理学会によるいくつかの研究では、マルチタスクだと思っていることは効果がなく、非効率的であることを示しています。 研究によると、あるタスクから別のタスク に切り替える際、タスクの移行はスムーズには行われずタイムラグ(スイッチングコスト)が発生します。

マルチタスクは、シングルタスクに比べ40%も多くの時間がかかり、複雑なタスクの場合はさらに時間がかかることが研究結果でわかっています。

長期的には脳に悪影響を与える可能性がある

英国のサセックス大学の研究者は、人々が複数のデバイス (テレビを見ながらテキスト メッセージを送信するなど) に費やす時間を、脳のMRIスキャンで比較しました。その結果、高度なマルチタスクを行う人は、共感と認知および感情の制御に関わる前帯状皮質の脳密度が低いという調査結果が出ました。

マルチタスクが脳に物理的な損傷を与えているかどうかを判断するには、さらに研究が必要としていますが、マルチタスクが悪影響を及ぼしていることは明らかだと言えます。

マルチタスクはEQを低下させる

会議やその他環境でのマルチタスクは、仕事での成功に不可欠と言われている2つのEQ(感情的知性)スキルである「自己認識」と「社会的認知」が低くなることがわかっています。

「EQ 2.0―(心の知能指数)を高める 66のテクニック」の著者を創業者に持つTalentSmart社では、100万人以上の人々をテストし、トップパフォーマーの90%が高い EQを持っているという調査結果を得ました。前項のMRIの結果が示唆するように、マルチタスクが実際に前帯状皮質(EQの重要な脳領域)に損傷を与える場合、その過程でEQが低下します。

この結果が示すことは、マルチタスクを行うたびに、その瞬間のパフォーマンスが損なわれるだけではなく、仕事での成功に不可欠な脳の領域に損傷を与えている可能性が非常に高いと考えられます。

マルチタスクはIQを低下させる

マルチタスクは速度が低下するだけでなく、IQも低下するという調査結果が出ています。ロンドン大学での研究では、認知タスク(※)中にマルチタスクを行った参加者は、マリファナを吸ったり徹夜したりした場合と同様のIQスコアの低下を経験したことがわかりました。

マルチタスクをこなす男性のIQが15ポイント低下すると、そのスコアは8歳の子供の平均的な範囲まで低下したという結果が出ています。

※認知タスク:知識の活用や,思考・行動が発生するタスク

燃え尽き症候群を誘発する

現代社会では人材の不足や多種多様な仕事を処理しなければいけない環境にある方も多くマルチタスクにならざるを得ない場合もあります。

しかし、マルチタスクによる脳への負担の発生やストレスホルモンの増加により、ある日突然急な落ち込みを感じ、燃え尽き症候群に陥ってしまう場合もあります。

参考:Multitasking Damages Your Brain And Career, New Studies Suggest

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シングルタスクに移行する

ここまでの内容でマルチタスクはデメリットが大きいことが伺えます。もし生産性を上げたいと考えるのであれば、シングルタスクを意識して仕事を進めてみることです。

しかし、ただシングルタスクに切り替えるだけでは大きな生産性向上には繋がりにくいため、シングルタスクを行いやすくし、集中を促すためのフレームワークを使用する工夫が必要です。
シングルタスクを効果的に行うには次項で解説するポイントを意識すると良いでしょう。

シングルタスクで仕事を進める際の3つのポイント

シングルタスクで仕事を行い生産性を高めるためには、作業の優先順位を付けたり、時間を区切って作業を行うなどの工夫が必要です。ここではシングルタスクを活かすためのポイントを解説します。

ポイント1:タスクを整理し優先順位をつける

やみくもに思いつく作業から処理しているのでは生産性は上がらないため、明確な基準をもって優先順位を付け作業を進めることが重要です。

優先順位付けには「7つの習慣」の著者であるスティーブン・コヴィーが考案した基準を参考にすると良いでしょう。

まず下記2軸で優先順位を考えます

  1. 緊急:責任がありすぐに処理が必要なタスク
  2. 重要性:優先度が高く、価値のある目標

上記2つの軸に加え、下記4つの象限でタスクを整理します。
第1象限:緊急かつ重要
第2象限:緊急ではないが重要
第3象限:緊急だが重要ではない
第4象限:緊急でも重要でもない

ポイント2:タイムボックスで作業する

優先順位を付けたら時間を区切りタイムボックスで作業することで作業に集中できる結果、生産性に寄与することになります。

タイムボックスで作業を行う場合のテクニックとしてタイムボクシングやポモドーロテクニックがあります。これらのフレームワークの小さなルールに則り作業を進めることでシステマチックに、効率よく、また、集中して作業ができるという大きな効果が期待できます。

関連記事:ポモドーロテクニックで生産性の向上は可能か?実施方法やメリット、導入のポイントを解説
関連記事:タイムボクシングとは?始め方や効果、チームへの導入について解説

ポイント3:タスク管理ツールを使う

タスクの整理を手書きしていては、優先順位付けやタスクの入れ替えを整理する際に非効率です。ただ、「書く」という行為は脳を活性化させるため、手書きする場合はタスクのリストアップにとどめ、その後の作業はタスク管理ツールなどのデジタルツールで行うべきでしょう。

タスク管理ツールは、タスクのリストアップ、整理、優先順位付け、スケジューリングが行え、タイムボックスで作業をする際の見える化も行えるため、非常に有用です。

まとめ

ここまで、マルチタスクについてさまざまな研究結果を用いながら解説してきました。効率が良さそうに見えるマルチタスクが、実は非効率であることが十分に理解できたのではないでしょうか。生産性の向上や効率化が求められる現代社会では、シングルタスクを使いこなす必要があると言えるでしょう。

シングルタスクを実施する際のポイントをおさえながら、自社の業務に取り入れる検討をしてみてはいかがでしょうか。

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